Edition 8
2023年度はSpotify O-Eastという最高峰のLEDスクリーンを備えた2階席構成のライブ会場で、鑑賞型のオーディオビジュアルから身体を揺るがすリズムを主体としたエレクトロニックミュージックまで、さまざまなタイプのパフォーマンスを思い描くその日ごとのテーマに寄せながら、音楽的、美学的に異なる方向性の3日間を作りあげました。また、毎年恒例の渋谷を代表するクラブWOMBとの共同プログラムを今年は2日間にわたり開催しました。その結果、Spotify O-Eastでのライブセットに焦点を当てた実験的なオーディオビジュアルパフォーマンスの数々とは対照的に、私たちのルーツでもあるダンスミュージックやDJの醍醐味を体験できるパーティが前年度と比較して増える傾向になりました。来場者はインバウンドの影響がかなり大きく表れ、アメリカ、アジア諸国、オセアニア地域出身の方の割合が日本に次いで顕著でした。また、音楽やメディアアートのファンだけでなく、クリエイティブやテクノロジーにアンテナを立てた社会人の参加者も多く見られました。これは、MUTEK.JPがフェスティバルとカンファレンスを通してさまざまなアーティストを紹介しているだけでなく、企業やブランドとのパートナーシップ構築を皆様の協力で実現できていることがコミュニティの多様化につながったよい結果であると捉えています。
プログラミングに関して言及すると、世界プレミア上演となったプロジェクトやアーティスト同士の初コラボセッションを今回のMUTEK.JPでいくつか実現できたのは、ひとえにアーティストへのリスペクトと感謝しかありません。出演者皆、それぞれの経緯で今回のラインナップに至りました。私たちのアイデアにアーティストが耳を傾けてくれたケースもあれば、アーティストの方から提案を受けたり、リリース作品を手がかりにライブをオファーすることも当然ありました。また、数年オファーを続けてようやくタイミングが合って承諾に至ったアーティストもいれば、8月に開催されたMUTEK Montreal 2023を訪れ、そこで見て衝撃を受けたアーティストもブッキングしました。MUTEK.JPではお馴染みの私たちが尊敬してやまないアーティストも今回何人か再登場しています。若手で新進気鋭のローカルアーティストも重要な枠として何組か選出しました。MUTEK.JPは独自の表現形式を確立したベテランのアーティストだけでなく、彼らと並び、鋭い感性と個性、志をもった有望なアーティストが挑戦できる場でありたいと考えています。
加えて、Edition 8では、全てのライブ / DJパフォーマンスが、オーディオビジュアルでのプレゼンテーションになりました。そもそもオーディオビジュアルアーティストのライブであったり、A/Vショーとして作られた作品 / ライブも多くありましたが、ミュージシャン / DJとビジュアルアーティストを組み合わせた演出を積極的にアーティストへ提案しました。音楽と視覚芸術が状況に応じて寄り添い、良い相乗効果が生まれることへの可能性に挑戦し、総合的なオーディオビジュアルパフォーマンスとしての体験価値をショーケースとして提示したいというMUTEK.JPの方向性が確立した回になったとも言えます。課題は、女性 / ノンバイナリーのアーティストの割合をさらに増やし、シーンのジェンダーエクイティに取り組むことです。
フェスティバルと並行して開催したカンファレンスイベントは今回、XR業界で破壊的イノベーションの先導を目指すテック企業、Mawariと提携開催し、プログラム内容においてもXR企業やクリエイティブテック企業との提携制作が中心になりました。最先端のテクノロジーと創造性がいかに相互作用し、過去に前例のない、人に感動をもたらす作品やコンテンツをいかに生み出すことが可能かという課題に実践で取り組みました。トークプログラムは昨年度に比べるとやや規模が縮小傾向に。XRインスタレーション / エキシビションの開催へより重点が置かれました。
2024年は9年目の年。10周年に向けてどのようなフェスティバルで在りたいかをイメージしながら、Edition 9の構想を練り始めています。どうぞご期待ください。
数字でみるEdition 8
- 4日間、東京・渋谷の3会場でフェスティバル/カンファレンスを開催
- 全体集客数:4,615人
- 5つの音楽プログラムで、39組のパフォーマンスを展開
- 3つのワークショップ、7つのトークプログラムを展開
- 3つのエキシビションを開催し、5つのXRアート作品を展示
- 2つのXRコンテンツ体験ブースを展示
- 日本のローカルアーティスト43名、インターナショナルアーティス19名が参加
- 日本のローカル専門家16名、インターナショナル専門家5名が参加
- 参加アーティストのうち、女性32%、男性68%
- 23のパートナー企業、行政、文化機関より支援
以下はEdition 8のアフタームービー。画像をタップしてご覧ください ↓
プログラム概要
Nocturne 1
Thursday, 7 December
at Spotify O-East
テクノロジーとサウンド、映像が融合するオーディオビジュアルに焦点を当てたプログラム「Nocturne 1」では、ミュージシャンPikamとビジュアルアーティストHanaの実の姉妹によるオーディオビジュアルユニット、tamanaramenが新作『水辺の囁き』を公開。続いて、Peter KutinとPatrik Lechnerによるオーストリア人デュオが、AIニューラルネットワークを使ったA/Vライブセット『Achronic』を日本初演。日野浩志郎によるソロプロジェクトYPYと、佐渡拠点の太鼓芸能集団・鼓童の3名、映像作家Siichi Segaの共演では、エレクトロニックサウンドと和太鼓のリズム、ミニマルで繊細な映像が融合したライブパフォーマンスが披露されました。Daito Manabeは、Sónar Barcelona 2023で披露したライブセットの最新ヴァージョンで、彼の集大成とも言える驚異的なA/Vセットを打ち出しました。ラストはイタリアの芸術集団SPIME.IMの日本初演で、現代の社会情勢を反映したA/V作品『Grey Line』をプレイしました。
tamanaramen JP — 水辺の囁き
KUTIN & Patrik Lechner AT — ACHRONIC
YPY & Kodo + Seiichi Sega JP [World Premiere]
Daito Manabe JP
SPIME.IM IT — Grey Line
Nocturne 2
Friday, 8 December
at Spotify O-East
実験的で多角的なアプローチによるサウンドとイマーシヴなビジュアルに焦点を当てた『Nocturne2』では、東京拠点のシンガーFriday Night Plansが、Enaとの共作による1stアルバム『Visitors』を携え、R&Bとエクスペリメンタルサウンドが融合したライブを披露。映像監督Leo Iizukaによる全編実写のVJにより、まるで映画コンサートを見ているような体験をもたらしました。続いて、Scotch RolexことShigeru IshiharaとShackletonのデュオが、2023年にリリースしたアルバム『Death by Tickling』を引っ提げ、ポルトガルの映像作家Pedro Maiaと共演した世界プレミアライブを披露。食品まつり a.k.a foodmanとビートメーカーRamzaの初のライブセッションにビジュアルアーティストKezzardrixがコラボレーションし、ファンタジックなA/Vショーが繰り広げられました。Fractal Fantasy主宰のSinjin Hawke & Zora Jonesは、モーションキャプチャで2人の動きを音と映像に変換する最新A/Vライブでこの日のイベントを締めくくり、観客を熱狂的なムードに包み込みました。
Friday Night Plans + Leo Iizuka JP
Scotch Rolex & Shackleton + Pedro Maia JP+UK+PT — Death by Tickling [World Premiere]
Foodman & Ramza + Kezzardrix JP [World Premiere]
Sinjin Hawke & Zora Jones CA/AT
Nocturne 3
Saturday, 9 December
at Spotify O-East
エレクトロアコースティックからメディアアートまでを繋ぐ『Nocturne3』では、小林うてな、Julia Shortreed、ermhoiの3人から成るエレクトロニックバンド、Black Boboiが多彩な楽曲群から構成された卓越したパフォーマンスを披露。モントリオール拠点のVJ、Yanneekと共演し、時に鮮やかで時に没入的なムードをステージにもたらしました。続いて、MUTEK Montreal 2023で披露されたカナダのサックス奏者Ida Toninatoと、コンポーザー兼ビジュアルアーティストのPierre-Luc Lecoursによる『Homeostasis』の日本初演。コンポーザー/エクスペリメンタルギタリストのOren Ambarchiとシンガー/電子音楽家のPhewによるデュオの世界初ライブに、画家のAkiko Nakayamaが共演し、神秘的な情景へと観客をいざないました。そしてトリは、ロシアのジェネラティブアートデュオ、404.zeroのA/Vライブセット。独自に開発オーディオビジュアル・シンセサイザーを用いて、モノクロの近未来的世界観とミニマルで有機的なサウンドが融合した最新作『ISOTRP』を披露しました。
Black Boboi + Yanneek JP + CA/QC [World Premiere]
Ida Toninato & Pierre-Luc Lecours CA/QC — Homeostasis
Phew & Oren Ambarchi + Akiko Nakayama JP [World Premiere]
404.zero RU
MUTEK.JP x WOMB 1
Friday, 8 December
at WOMB
恒例のオールナイトプログラム『WOMB × MUTEK.JP』は、2夜にわたり開催。初日は、Future Terrorの共同主催者兼レジデントDJとしても知られるHaruka、テクノプロデューサーSodeyamaによるレアなライブセット、そしてアシッド、スペイシーハウス、サイケデリックテクノ、トランス、アンビエントを織り交ぜたDJに定評があるUKのDJ、Jane Fitzがメインフロアに出演しました。VJはMUTEK.JPでお馴染みのManami Sakamotoが担当。
Haruka JP
Sodeyama JP - live
Jane Fitz UK
VJ: Manami Sakamoto JP
LJ: AIBA JP
Hugo LX FR
Aoi Kuhihara JP
Terax JP
MUTEK.JP x WOMB 2
Saturday, 9 December
at WOMB
フェスティバルを締めくくるオールナイトイベントの2日目は、東京拠点のプロデューサーIttiとHAIOKAのデュオによる初ライブに、strings VYがビジュアルで共演。UKドラム&ベース界の重鎮、dBridgeの日本初ライブセットに続き、Skull Disco主宰、ポリリズムトライバルの最高峰Shackletonがソロのライブセットで登場。サイケデリックで躍動感のあるビジュアルに定評のあるSO IN THE HOUSE、繊細でエレガントな表現の100LDKが一晩を通してVJで参加。最後は、日本のDJ、Lynneがエクスペリメンタルとドラム&ベースを行き来する実験的かつグルーヴィーなプレイでパーティを締めくくりました。
Itti & HAIOKA + strings VY JP - live A/V
Shackleton UK - live
dBridge UK - live
Lynne JP
VJ:SO IN THE HOUSE JP
VJ:100LDK JP
LJ: AIBA JP
Koki JP
scrab JP
Block Univers JP
Digi Lab
Digi Labプログラムの1つ目は、恒例のDerivative社とMUTEK.JPの共同開催によるTouchDesignerのワークショップ。シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]との提携により開催しました。2つ目は、次世代型ウェアラブル・イヤホン型脳波計の開発とニューロテクノロジーの社会実装を行うVIE株式会社とAbletonの共同によるNeuro Musicワークショップで、ゲストスピーカーに食品まつりa.k.a foodmanが出演。その後、VIEプロデュースによる「攻殻機動隊 SAC_2045 : Special Collaboration」と題したトークセッション、藤井進也 & XVXと脇田玲によるA/Vライブセッション公開へと続きました。そして3つ目は、XRプロデューサーの&PullとMawariが共催する、3DやXRのコンテンツを作成可能なノーコードツール、MXRのワークショップ。どちらも渋谷Stream Hallにて開催されました。
TouchDesigner Workshop
VIE presents: “Neuro Music - Dive into your brain"
MXR Workshop
MUTEK.JP Pro Conference in collaboration with Mawari
"3D/XRコンテンツ・ストリーミング・プラットフォーム"を提供するMawariとの共同企画でカンファレンスイベント「MUTEK.JP ProConference in collaboration with Mawari」を、12月9日と10日の2日間にわたって開催しました。ダンサーHiroaki UmedaとMawariの協働で制作された没入型のXRインスタレーション『assimilating XR』の開催、3つのVR作品を展示した『MUTEK Immersive Collection』、XRの実験的プロジェクト/コミュニティNEWVIEWのキュレーションによる作品展示を実施。さらに、Nianticの開発者向けARプラットフォームを活用した2つのXRコンテンツ、「GOFL by Liquid City」「Magical Forest by Designium」の体験ブースを設けました。12月9日に開催したトークイベントでは、国内外のアーティスト、クリエイターをはじめ、技術者、専門家、企業からの立役者が一堂に会し、AI、XR、WEB3などをキーワードに、テクノロジーの未来と、デジタルクリエイティブやアート、コミュニティの役割を検証しました。
Immersive program:
assimilating XR installation
MUTEK Immersive Collection exhibition
NEWVIEW “Humarium” Tomoro Kinoshita exhibition
XR experience booth:
GOFL by Liquid City
Magical Forest by Designium
Talk program (Speakers):
Luis Oscar Ramirez Solorzano (Mawari), Eric Wagliardo (&Pull / MXR), Faizal Zia (GSMA), Takeo Yatabe (Mawari), Keiichi Matsuda (Liquid City), Jay Kogami, Bartek Kolacz (Kalkul)、Naotake Masuda (Neutone), Yoshiro Tasaka (Shibuya City Office), Taihei Shii (Founder of Startburn), Kyoko Kunoh (Ars Electronica), Mariko Nishimura (HEART CATCH), Saeko Ehara, Yuma Yanagisawa, Claudia Montes (Vision Itinérante), Arif Khan, Tim Stevens (British Film Institute), Nori Nakata (NORIFORCE), Niinomi (NEORT), Yusuke Shono, Shunsuke Takawo
カンファレンス、トークプログラムの詳細は、以下のウェブサイトからご覧いただけます。
Website: MUTEK.JP Pro Conference in collaboration with Mawari
Partners
Arts Council Tokyo, Mawari, Niantic, ETERNAL Art Space, VIE, TouchDesigner, Ableton, NEWVIEW, MXR, SHURE, Shibuya Stream Hall, Spotify O-East, WOMB, Shibuya City, General delegation of Quebec in Tokyo, Federal Ministry Republic of Austria, austria kultur, INSCAPE, Roland, SUPER DOMMUNE, POKETALK, Sony PCK Inc., ONKEN, PRISM, amazon music, Johnnie Walker, COLE HAAN, Designium, Liquid City, YOKOHAMA DANCE COLLECTION
Credit
Aftermovie: Timothée Lambrecq
Music: Daito Manabe
Photos: Shigeo Gomi, Masanori Naruse, Yasuko Tadokoro, Tatsuki Nakata