MUTEK.JP Edition 5 - レポート
世界中のさまざまな日常や常識が突如一変した厳しい年となった2020年の年の瀬に、MUTEK.JPは設立5周年を迎え、12月9日から13日にかけて、東京のフィジカルな空間と国内外のオーディエンスをヴァーチャルプラットフォームでつなぐ、ハイブリッド形式のフェスティバルを開催しました。12月10日から12日に渋谷ストリームホールで開催したリアルイベントでは、エレクトロニックミュージックとオーディオビジュアル・アートの画期的なパフォーマンスが3日間にわたって披露されました。またヴァーチャルでの開催に至っては、日本とメキシコの2つのアートコミュニティの融合と、物理的な断絶や社会的孤立を克服する新たな遊び場を探求するという意図がありました。
MUTEK JapanとMUTEK Mexicoは、5日間の開催の中で、3つのヴァーチャルステージで35以上のパフォーマンス、最先端のデジタルアート作品を展示したインタラクティブギャラリー、ヴァーチャル版Digi Lab形式のレクチャー、トーク、マスタークラス、そしてMUTEKネットワークのアーカイブからノンストップで選りすぐりの楽曲を聴くことができるリスニングルームを提供しました。また、メキシコと日本のコアプログラムはMUTEK Connectシリーズによって拡張され、世界中に点在するMUTEK支部や、ノルウェーのInsomnia FestivalとEkko Festival、イタリアのClub to Clubフェスティバル、韓国のB39/PRECTXEフェスティバルといった国際的なパートナーとのコラボレーションの場を提供しました。
Edition 5 の結果
- 東京で各日限定人数のリアルイベントを3日間開催、500人が来場
- virtual.mutek.orgへ5日間で8,500人以上のユーザーが参加
- 渋谷ストリームホールで12のフィジカルパフォーマンス、6つのDigi Labセッションを展開
- 世界16カ国から77組のアーティストが参加、うち日本からは26組がヴァーチャルフェスティバル・プラットフォームへ登場
- 44のパートナー団体による支援
以下は、MUTEK.JP 2020 Edition 5の活動内容をまとめたものです。
私たちMUTEK.JPチームは、厳しい時代に生きるからこそ、これまで以上に重要であると気付かされた芸術と音楽への支援を表明・実行することを主な目的として、第5回MUTEK.JPフェスティバルを開催しました。この年はコンサート、エキシビション、野外体験、クラブナイトといった文化的なイベントの大半が世界各地で中止になりましたが、地元の芸術コミュニティに創作、実験、パフォーマンス、発表の場を提供するという私たちの使命を、どのような形であれ継続していく必要があると考えました。つまるところ、そうしたコニュニティ意識こそがフェスティバルの原動力であるからです。
MUTEK.JPのコミュニティは、アーティストだけではなく、5年間にわたって継続的にサポートいただいているオーディエンスの皆さまにも自然と広がっています。MUTEK.JPの目的は、芸術や音楽を発表するだけではなく、新しい鑑賞や体験価値の場を提供することでもあります。ネガティブなメッセージが満ち溢れ、社会的な孤立や不安が高まっている今、アーティストとオーディエンスがより安全に交流できる空間を提供することは、感情を表に出す場として、人と人とのつながりを保つための方法として、そして明るい未来を想像するための手段として、とても重要であると考えています。
2020年は該当分野における、芸術文化・音楽の支援、鑑賞・体験価値の場を提供するという動機のもと、アートコミュニティへの支援を促進し、日本の芸術・音楽でローカルと世界のオーディエンスを結びつける、新しいフォーマットの開発・実験に力を注いできました。その中心となったのが、オーディエンス、アーティスト、我々チームなどのすべての参加者の安全を保障するフォーマットの開発でした。性別、セクシュアリティ、民族性を問わず、より安全な空間を提供することはMUTEKネットワークの継続的な取り組みであり、それは来場者の健全さを保つことにもつながります。フェスティバル参加者の厳正なる審査、限られたキャパシティ、ソーシャルディスタンスを保持した着席環境から、新しいタイプのフェスティバル体験が生み出され、私たちはフィジカルとヴァーチャルのプログラムを通してそれに順応するよう努めました。
しかし、私たちにとっての安全とは身体的な健康だけではなく、精神的な面にも及んでいます。今の時代におけるストレスは芸術家コミュニティに重くのしかかり、芸術的なアウトプットの不足による経済的安定性の欠如は多くの人を苦しめています。これはアーティストだけでなく、ブッキングエージェントや制作スタッフ、バーのスタッフなど、文化に関わる全ての人にも言えることです。従って、文化的な活動が不足している年だからこそ、私たちのネットワークの中にいる文化人、アーティストにも参加してもらいたいと考え、フェスティバルを実施しました。
今回のハイブリッドエディションでは、多くの学びがありましたが、そのうち以下の2つのことが、非常に明確化しました。第一に、数年前と比較して多感覚体験を提供するための技術が成熟してきており、その傾向がこの12ヶ月で加速している点です。最新の超高精細技術、拡張現実やヴァーチャルリアリティ、個人使用または会場での没入感のあるサウンド、これらすべてのバックエンドを駆動するアルゴリズムソリューションなどが挙げられるでしょう。私たちはこれらのテクノロジーを活用して、古いものを育て、新しいつながりを形成することをミッションとして、さまざまなレベルのリアリティを超えた新しいフォーマットを開発しています。これはあらゆる可能性を広げると同時に、とくにフェスティバルとしてのMUTEK.JPにとっては、多くの責任が伴う大きな課題でもあります。
この新たな現状は、これまで以上にキュレーションのプロセスが重要になってくるという第二の学びにつながります。どのようなテクノロジーを使い、どのようなフォーマットを採用するかを決め、この多様な可能性をどのように結びつけて、アーティストとその作品を最もインパクトのある方法で紹介し、オーディエンスを魅了するジャーニーとハイブリッドなフェスティバル体験を生み出すことができるか。私たちにとってのフェスティバルとは、芸術コミュニティとの連携を強化し、これらの新しいフォーマットを共同で開発していくことを意味します。また、熱狂的なオーディエンスの皆さまからのご意見やお力添えにより、フェスティバルの素晴らしさを追求していきたいと考えています。ハイブリッドフォーマットを今後も探求していく上で、実験するリスクを恐れず、境界線を押し広げるようなキュレーションが非常に重要であると認識しています。
MUTEKとしては、新たな時代の変化を捉え、該当分野における芸術文化活動の更なる振興に向け、力強く未来を切り拓いていきます。この不確実な時代に、我々の活動が提供できたことは、関係者、参加者、そして国内外の多くのパートナーの皆さまからによる、信頼と多大なるご支援こそがこの結果を生んだのであり、心より感謝申し上げます。2021年も様々なプログラムを展開して参りますので、皆さまにお会いできることを楽しみにしております!