バックグランドストーリーズ: Masayoshi Fujita
過去のフェスティバルで収録されたパフォーマンス映像をアーティストのインタビューとともに公開するこのシリーズの第3弾は、Masayoshi Fujita。
ヴィブラフォン奏者、コンポーザーの彼は、ヴィブラフォンの伝統的な演奏方法やスタイル、作曲法にとらわれることなく新たな音の可能性を探求し続けていることで知られ、とりわけエレクトロニックサウンドとの融合は、'00年代後半のEl Fog名義でのアンビエントやダブ、ジャズの断片が垣間見える作品や、ドイツ人エレクトロニックミュージシャンJan Jelinekとのコラボレーション(2010年と2016年にFaiticheから2枚の傑作アルバムをリリースしている他、世界各地でライブを行う)からも明白で、活動初期から彼の創作において重要なテーマのひとつとなっている。また一方でヴィブラフォンの音そのものへの興味を次第に深めていき、これまでUKのレーベルErased Tapesから3部作のアコースティックアルバムを発表。そして2021年には同レーベルより、ヴィブラフォンをはじめマリンバ、その他パーカッションとエレクトロニックなサウンドが融合された新アルバム『Bird Ambience』をリリース。彼の異なる側面がここで再び一つに結合・昇華された作品となりました。
MUTEK.JP 2021ではその作品が軸となったエレクトロアコースティック・ライブパフォーマンスを披露していただきました。視覚的にスムーズかつダイナミックなパフォーマンスからは、美しい音色や音響的テクスチャ、ノイズ、哀愁のあるメロディなどが巧妙かつ繊細に織りこまれた、幽玄なアンビエンスが生み出されていました。
今回のインタビューでは、アコースティックとエレクトロニクスまたはアナログとデジタルの融合、ライブ演奏におけるチャレンジングな点、インスピレーションなどについて話を伺いました。以下に紹介するインタビューとあわせて、約50分に及ぶ彼のアーカイヴ映像をご覧ください。
↑(画像をクリックするとパフォーマンス映像がスタートします)
前回のパフォーマンスについて詳しく教えてください。ビブラフォン、マリンバ、ドラム、パーカッションなどの音とエレクトロニックサウンドが多様に重なり合っていましたが、どのような手法でアコースティックとエレクトロニクスの融合、またはアナログとデジタルの融合を試みていたのでしょうか? 楽器のサウンドを拡張しているような場面もありましたよね。
昨年リリースしたアルバム”Bird Ambience”が、これまで自分がやってきた様々なスタイルの音楽を一つに統合したような内容で、今回のパフォーマンスでもそのアイデアをベースにアコースティックの楽器とエレクトロニックな音との融合を試みました。アルバム制作時にはライブでどうやって演奏するかは度外視して作っていたので、ライブセットを作っていくのにはだいぶ苦労しました。
アコースティックとエレクトロニクスの融合というのは、音楽を作り始めた頃からずっとあるテーマというか興味なので、そこは変わらずずっとやっているという感じです。その中でも、新鮮で面白い音の組み合わせやアコースティックの音を拡張するような使い方というのは意識しています。エレクトロニックな部分は、ラップトップでトラックを流したり、ドラムパッドタイプのサンプラーで打楽器的に電子音やサンプルを鳴らしたり、シンセを手で弾いてみたりと場面場面での必要な音や演奏スタイルに合わせて色々な方法を使っています。
音の拡張という部分では、マイクで拾ったマリンバの音をシンセのエフェクターに通したりペダルエフェクターに送ったり、楽器と同時にサンプルを鳴らしたりと色々な方法を試しています。これまでのアコースティック作品にも通ずるところですが、ヴィブラフォンやマリンバの可能性を広げるというスタンスは常に根底にあるので、今回は主にエレクトロニクスを使って楽器の音を拡張するということをキーポイントの一つとしていました。
楽器の演奏にくわえてエレクトロニクスを駆使したライブを一人でするとなると、単純に身体的に忙しくはないですか? 演奏の即興性とコンポジションの間のバランスがそれを可能にしているのでしょうか。
おっしゃる通り忙しくなりがちで、でもそうなると音楽的にも見た目にもよくないので、なるべくシンプルに、焦らず音をゆっくり聴きながら演奏できるようなアレンジや構成を心がけています。あまりかっちり決め過ぎると、ちゃんと合わせなきゃとか、ズレないようにとかを気にしすぎて、もっと大事なイメージだとか音色だとかにフォーカスできなくなるので、その時の自分のタイミングや感覚で次の音を鳴らしたり楽器を持ち替えたりできるように、構成や展開にルーズな部分を残すようにしています。
あと、単純にバックトラックを流してそれに合わせて演奏するということもしたくないので、サンプルやビートなどを使うにしても、なるべくその場で音に反応しながら組み立てていける余地を残しながら、半分インプロも交えながら演奏しています。大体やることは決めているけど、実際にどのタイミングで演奏するかや細かいフレージングはその時の感覚に任せるというようにするとうまくいくことが多いので、それを意識して組み立てています。
中盤以降のマリンバから始まり、音のレイヤーが一つ一つ丁寧に重なっては消えていく展開は、琴線に触れるようなメロディーと音響テクスチャが情景的なアンビエンスを生み出し、それが果てしなく広がっていくようでとっても美しかったです。インスピレーションはどこから来ているのでしょうか?
マリンバのインプロから最後の2曲、”Cumulonimbus Dream”と”Fabric”にかけてのことだと思いますが、あの2曲は割と素直にライブ演奏に落とし込めました。曲のパーツごとに分解して、遊びながら演奏できるような隙間を残しながら再構築する感じで、自分でも曲のイメージに浸りながら演奏できるのでやっててとても楽しいです。
曲作りの時もそうですが、インスピレーションは常に楽器の音から受けています。なんとなしに弾いた音からふとイメージが浮かぶことが多くて、ほとんどの曲はそういった曲の「種」みたいなものから出来ていきます。何かイメージが先にあって曲を作っていくということはめったにないですね。あったとしても全然違うものができたり。
今回の演奏でいえば、曲が持つイメージに浸りながら演奏しつつ、音楽的に思いついたアイデアを足していって、そこで元のイメージと合わさって少し違うイメージになっていったりということをしていた気がします。最後の曲のメロディなんかは、自分の子供の中に見る自分自身の子供時代の記憶の哀愁というか切なさみたいなイメージがあって、そういうものを感じながら演奏していました。
プレイを終えての感想はどうでしたか?
なんとかやりきったという感覚でした。ライブでの演奏を考慮せず作った音源をどうやって演奏するかということで何ヶ月も試行錯誤を重ねてきて、直前まで色々試したり変えたりしていましたし。あと技術的にも結構リスキーなことをやっていた部分もあって。マイクで楽器の音を拾ってループやエフェクターを使っているんですが、楽器の幅が大きいこともあってマイクをある程度離さなければならずハウリングが起きやすかったり。実際、今回もハウリングが出てしまって早めに切り上げたパートなどもあったりしましたし。
近年日本に拠点を移されたとお聞きしましたが、環境の変化は藤田さんの音楽活動に影響を与えましたか?
最近やっとスタジオが整ってきて集中して制作できる環境ができてきたばかりなのでまだちょっと分からないところではあるんですが、新しい生活環境が自分の作る音楽にどのような影響をあたえるかというのは、自分でも楽しみにしています。僕の場合、見えているものや自分の周りの物事などから曲を作ったりだとか、目の前の大自然からインスパイアされて曲を作るといったことはほとんどなくて、自分の中に残って積もっていったものが、曲ができる時に滲み出てくるという感じなので、そういった影響は今後ゆっくり出てくるんじゃないかなと思っています。
大自然の中で暮らして制作するというのがずっと夢だったんですが、つい最近、山の上の小さな集落にあるスタジオのすぐ近くに家も引っ越して、豊かな自然の中で生活を始めていい生活リズムと制作ペースというのが見えてきたので、これからの曲作りがとても楽しみです。
近々の予定があれば教えてください。
6/18に京都の舞鶴でヴィブラフォンソロのライブがあります。他にもいくつかライブのお誘いをいただいているので、近々お知らせできるのではと思います。あと、先日ベルリン時代の盟友Will Samsonのリミックスが公開されました。Willはいろんな苦労を共にしてきた戦友のような存在なので、またこうやって関われて嬉しいです。あと、アメリカのアーティストのリミックスも制作中なので、そちらも近くお知らせできると思います。
Interview conducted by Midori Hayakawa
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